ちょっと前にあったお酒の席での話

「Nはモデル以外にももっと実証テクを身につけたほうが良い。」
と言われました。特定のテクを身につけると、できることやろうとするが限られてしまうので、必要に応じて学びたいというのが自分の方針なのですが、その辺は置いときます。まぁ就職に有利なのは確かです。


多様な実験手法があるように、数理の研究手法にも数学解析から大規模シミュレーションまで幅があり、どれか一つを修得するも大変です。数理であれば誰でも何でもできるというわけではなく、人によって得手不得手があります。というか自然とニッチが分かれていくのかもしれません。


そんなこんなで以下のようなやり取りが続いていきます。
「数理は実際の自然を見ないと駄目。」
数理の人ならよく言われることだと思います。まぁ見ないいよりは見たほうが良いのはその通りです。


でも私はこう答えました。
「実験系も自然を見ていない。」


すると、こう言われました
「数理は机上の空論。」


全否定です。役に立たない理論はあるけど、理論が役に立たないわけじゃない。それに、もしそうなら室内実験は実験台の上の空論で、フィールド実験は圃場の上の空論ということになってしまう。


さらに相手は攻めてきます。
「数理は仮説検証できない。科学ではなく論理学。」


私はこう反論しました。
「データから読み取れる仮説的解釈を理論的に検証できるし、理論的仮説をデータで検証できる。何が仮説で何が検証かは人によって違う。」
咄嗟に出た論ですが、前から考えていたことを巧く言えた感があります。


この辺からはグダグダニなっていって、お酒も入っているので議論も堂々巡りでしたが、最終的には
「Nは実証テクも学ぶべきだ。」
という主張に落ち着いてもらいました。


理研究に対する無理解はしばしば感じます。現実を扱っていないから結局は何もしていないというものから、反対に、コンピューターを使って何でもできるという尊敬みたいなものまで。何でもできるわけじゃないのに。


こんな相談を受けることがよくあります。
「こんな相互作用系があるんだけど、モデル作れない?」
魚を持参して何か実験できる?、みたいな感じ。
そんな時、私はこう言います。
「仮説は何ですか?」


理論屋はマトリックスのような世界を創造するプログラマーではないです。昔は思考実験と言われ、シミュレーションは数値実験と呼ばれるように、自然界を切り取って観察すると言う意味で数理は広義の実験になります(数理部屋のプレートを要チェック)。そして、実験であれフィールド観察であれ、生態学は論理の科学です。


まぁ何が言いたいのかというと、今年の数理生物学会研究奨励賞をいただくことになりました。
関係者の皆様には感謝申し上げます。m(_ _)m


すでにやろうとして失敗していたと言われたイサザ標本の遺伝解析。実は別の魚であったことが判明しました。イサザでうまくいくかどうかは難しいところですが、挑戦してみようと思います。


ジョグ
火曜9㌔、木曜9㌔