セコイアと竹

海外などで日本では見慣れてない生き物やその生態を見たときに、その違いが環境や進化史の違いを反映しているのだろうかと想像することは、生態学をやっていれば一層楽しいと感じることだと思います。日本でフィールドワークを経験したことがほとんどなく、散策をする程度のことはあっても、いわゆるナチュラルヒストリーには一般の人並みに疎く、専門家(同業の友人知人)がいなければ、目の前の生き物が持っているであろう面白いものは何か見当もつきません。そのような知識があれば、海外に行かなくても、日本でも野外で感動することがもっとできるのだろうと羨ましく思うこともよくあります。それでも、明らかに「変わった」生き物を見ることが海外ではたまにあり、そのような時は、不思議に思い、感動しつつも、なぜそうなのだろうと理論的に妄想することを楽しんでいます。


数年前、世界一高い木であるセコイアで有名なカリフォルニアのレッドウッド公園に、日本人っぽいアメリカ人に連れて行ってもらったとき、巨大な母樹の根元の周りに、何本も木が環状に萌芽しているのを見ました。しかも、その1本1本が普通の樹木並みに太く、一見して非適応的に思えました。資源競争が激しくなりますし、母樹が倒れるほどの撹乱環境にも見えません。そこの巨木は何百年も何千年も生きています。結局理由は分からずじまいでしたが、同行したMさんと、何故だろうとしばらく考え込んだ記憶があります。


その後、すこしネットで調べてみれば、セコイアはむしろ山火事の多い撹乱環境に生える樹木であることが分かりました。山火事でも枯れず、種子も燃えず、山火事を経験することで発芽が促される陽樹のようです。山火事と萌芽とのはっきりとした因果関係はまだ知りませんが、おそらくそのような撹乱環境で他の種を出し抜くための適応戦略に関係しているのだと思います。



カリフォルニアのセコイアを思い出させたのは、最近、気になっている台湾の竹の生え方です。大学の中や公園などによく生えていて、最近までは全く気にもかけていなかったのですが、その生え方が日本の竹と違っていてることに気づいてからは、気になって仕方がありません。尋常じゃないほどの集中度です。


もし地下でつながっていて物質のやり取りが行われていれば、資源利用は関係なさそうですが、光の利用効率は落ちるのではないでしょうか。もしかしたら、分布様式そのものに何か利点があって、台風による撹乱耐性かも、と妄想しましたが、まだ納得のできる仮説は出てきません。こういうのが、ぱっと出てくるのが、理論家の才能なのでしょうか。ちなみに、竹は熱帯起源で、元々は集中分布していたものが、日本に侵入してから散在タイプになったそうです(竹の参考HP)。それでも、なぜ日本で散在タイプに進化したのかは分かりません。そちらの方が効率が良さそうに見えますので、進化の途上なのでしょうか。タイ・ミャンマーの竹もなかなかの集中具合です。