D論とセミナーとコメントと

学位論文のジェネラルイントロ・ディスカッションが英文校閲から返ってきた。早速内容を確認。何箇所か変な直しがあったので、そこは自分で修正。最近、英語のチェックが少なくなってきた気がする。心を打つ文章とまでは行かなくても、最低限のレベルにまで達しつつあるということだろうか。でも、Oさんからのダメ出しは厳しくていつも打ちのめされてしまう。


明日の数理セミナーでの論文紹介に備えて2本追加。
まずConvergence and parallelism reconsidered: what have we learned about the genetics of adaptation
Arendt and Reznick TREE 2008
Jeff Arendtは、魚類の進化生態学、特に個体成長や体サイズで有名な人。サイズ進化論文でもキー論文として引用させてもらった。彼の仕事のおかげでモデルを正当化できた。David Reznickもまた魚類の進化生態学者。特に生活史のトレードオフで有名で、彼の繁殖コストのレビュー論文も繁殖調整論文で引用させてもらった。これまで彼らの論文は独立して引用していたのだが、今回TREEで共著を見てビックリ。仲良しだったのかぁ(というか所属が同じ)。さて、このオピニオン論文は平行進化(parallel evolution)と収斂進化(convergent evolution)の定義について。これまでの大雑把な括りでは、平行進化は「同じ表現型が近縁種・同種の別個体群で独立して進化すること」であり、収斂進化は「同じ表現型が異なる種で進化すること」。そのため、進化のメカニズムが前者では同じだが後者では違うと、暗黙のうちに仮定されてきた。しかし、最近の研究では、同じ表現型が、近縁種でも違うメカニズムで進化したり、異なる種でも同じメカニズムで進化することがある。それぞれの事例を幾つか紹介。結論としては「収斂進化」に統一しませんか、みたいな。発生学の最近の発展から出てきた話のようだ。


次にBack to the future: museum specimens in population genetics
Wandeler, Hoeck and Keller TREE 2007
これまで魚のホルマリン標本を使って、体サイズ動態や安定同位体分析をやってきた。数十年間も大事に保存されてきた標本群を見ていると、学術的な価値だけではなく、時間を越えたロマン(?)みたいなものを感じる。地味だが本当に貴重な作業だと思う。以前から、これらの標本群を使ってまだ出来ることがあるのではと考えていたし、幾つかアイディアもある。しかし、テクニックが無い(T_T)。そのため、ホルマリン保存された標本がどれほどの実用可能性を持つのか悩んでいた(だからといって特に調べたりすることも無かった)。このレビュー論文は、自然史コレクション(NHC)を用いた遺伝解析について。大進化と呼ばれる現象については化石記録が使われる。しかし、最近では小進化や迅速な進化と呼ばれる現象が注目されており、その場合、博物館などに保存されている標本は有効なサンプルになる。これまでの研究の流れは主に2つ。保全生態(過去と現在の遺伝的多様性の比較など)と進化生物(進化メカニズムの特定など)。解析での問題点や展望などを紹介。一番の収穫は、ホルマリン標本の遺伝解析は難しいと分かったこと。。。
"DNA extraction and PCR amplification from formalin-fixed specimens, however, is particularly difficult."


繁殖調整論文のエディターコメントをチェック。クリティカルな点は3つ。(1)モデルの現実性、(2)安定化の一般性、(3)適応的な可塑性。午後はO研セミナー、演者はⅠ研の学生。昼飯食ってセミナー出てから、レフリーコメントもチェックしよう。


学位論文の製本費用が予想外に高くて悩んでいたらセミナーに遅刻した。


レフリーコメントは、概ね説明不足が原因と見られる。改めて、丁寧に書くことの大切さを肝に銘じる。再計算が必要なのは、可塑性の適応的意義に関する点だけだろう。適応的な可塑性をモデル化していないというコメントは、休眠卵論文やD論の審査でも言われた。果たして可塑性は常に適応的なのか、まだ議論されている重要なテーマだ。今日はとりあえず予備シミュレーションをしてみよう。


僕のデスクの上の天井には茶色くなったカマキリの卵塊があり、時々孵化してきた小カマキリが落ちてくる。見ている限りで、今日は3匹目。僕のブラインドタッチの速さにビックリして逃げてった。